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『支援する株主』をつくりませんか?と前の投稿で問いかけました。
でも中小企業で株主を育てる、IRって言ったって・・・という声も聞こえそうです。
そこで、卑近な例ですが私が家業を継いだときにやっていたことと当時の思いを記します。一ケースとして読み流していただければ幸いです。
家業の丸山組を経営していた頃は、父と自分の他に、私の姉と妹が自社株を持っていました。生前贈与で均等に渡されていたもので、父から特に説明があったわけではありません。我々三姉妹も、丸山組の株を持っていたことすら知らされていない程度でした。
自分が跡を継ぐと決まった頃から、父に「株は自分に集約させてほしい」と私は言い始めます。
小娘の私は、ビジネススクールで教わった通り「株式は集約すべきだ」と言い張ったのです。
父は私の言い分に理解を示しつつも、最終的に「社長になる私が70%、姉と妹に15%ずつ」と決めました。
日ごろ考えをはっきり言わない父が、めずらしく明確に言った言葉をよく覚えています。
「会社をやるのはお前(祥子)だが、娘たち3人で丸山組を支えてほしい。少しでも株を持っていたほうが意識するだろう」。
そのとき私が思ったのは、「意識してもらいたいなら、彼女たちにもちゃんとそれを伝えないと!」というシンプルな発想でした。動機としては、黙って贈与するだけの父への憤りのほうが強かったかもしれません。
IRという言葉も知りませんでしたが「知っってもらうのは私(経営)の役目だ」と考えました。
一方、姉妹たちはといえば特に「株主」という意識もなく、何かを主張することもありません。自分たちが株を持っているかどうかすら、よく分からなかったのですから。
株のことはさておき、まずは定期的に姉妹食事会をするよう努めました。
食事の前に、簡単に丸山組の近況報告をします。
ここでのポイントは「食べながら」ではないこと。10分でいいから食事の前に丸山組の話題をきちんと伝えること。家族でなぁなぁになりがちだからこそ、話題の線引きは大切です。
(かといって会議室でかしこまるのも抵抗があるので、食事会の前という設定。ファミリーによってケースバイケースでしょう)
大きな工事の受注、新入社員の様子、新しいシステム導入に社員は四苦八苦してることなど、写真入りの簡単なペーパーを作り、「いま丸山組はこんな感じだよ。こういうことを私と父親は考えているよ」と話しました。
私たちの育った家は会社と同じ敷地内にあり、姉妹も社員の顔と名前は知っていました。実家に立ち寄った際に社員と顔をあわせることもあります。20人の社員とそういう間柄のファミリー株主ですから、「●●さん、いま○○中学の現場にいるんだね」「△△さんはあと3年で定年かぁ」という情報を伝えておくことで、彼女たちが社員とすれ違ったときに親近感を持てるようになります。立ち話の話題提供くらいには役立ったかもしれません。
この時、姉妹に具体的なアドバイスを期待していたわけではありません。彼女たちも、私に何か言ってやろうという気もなかったと思います。
「お客さんが喜んでくれて良かったね」
「ボーナスを上げてあげられてよかったね」
「さっちゃん、よくやってるね」
「がんばってくれてありがとう」
彼女たちはいつも、こうした優しい言葉をかけてくれました。
そういう言葉をかけてあげられるのは、株主しかいません。
こうしたあたたかい言葉が、新米経営者の私にはどれだけ励みになっていたか。
特に、父親と働く難しさを一番理解してくれたのは、父親という人間を同じように知っている姉妹だけです。
自分の立場に、真に寄り添ってくれる人たちがいる。
その人たちは決して自分を裏切らない。
多少の価値観は違えども、家業を大切に思う気持ちを誰よりも共有できる人たち。
私は恵まれていました。
父とはかなり難しい関係でしたが、会社を継ぐことができたのは姉妹がいてくれたからです。その姉妹が、株主という形で携わってくれたからこそ、いまこうしてファミリー株主の強さを信じることもできています。
ずいぶんと話が長くなってしまいましたが、『支援する株主』のかたちは様々で、自分なりに作ればよいということが伝わればと思います。
私が大切だと思う観点は、
「経営者である自分がどんな支援を必要としているか」が分かっていなければ、『支援する株主』は作れないということです。
スタートアップで株主を上手に生かしている経営者は、「いま自社になにが必要か」を考え、要請することができる経営者です。自分や自社に必要な支援を引き出すために、場をセッティングし、自ら情報提供し、素直に株主と対話します。
私の場合は、何より精神的な支えが必要でした。丸山組を一緒に見守ってくれる存在が必要でした。
あなたは、どんな支えを必要としていますか?