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あるファミリービジネスのクライアントとの、初回面談のときのことでした。
面談の終わりしなに「ここまで理解してもらったのは初めてです」というような言葉をいただきました。
そのクライアントは男性で、ファミリービジネスの一員でいらっしゃったものの、かつて私が経験した立場とは異なるお立場でしたし、もちろんご状況も、私が体験したことのないものでした。
私がクライアントから信頼いただける第一歩に、まちがいなく「同族企業経営の経験がある」という1点があります。
しかし、私が経験したことは、あくまで私自身の狭い世界のことであります。世の中に同じ家庭が2つとないように、同じ会社、同じ問題というのは存在しません。ですので、知識としての自分の経験はさほど役に立つものではありません。
同族企業経営の経験者であることは、ご相談をいただくきっかけにはなり得ても、「この人に相談して良かった」「この人なら共に進める」と思っていただける支援者にはなりません。
必要なのは、深い理解と共感。
理解と共感の力を養うために、私はこの本をたいへん参考にしています。
共感という、他者の経験を自分自身に取り込む力は、人間が基本的な性質として備えているもので、友人や家族との関係、社会、この地球を、健全に機能させるために重要な力です。(中略)
自分を開き真っ直ぐな状態で共感を抱き続けることができれば、私たちは共感の大地にしっかりと立っていられるでしょう。
『Compassion 状況にのみこまれずに、本当に必要な変容を導く、「共にいる」力』
ジョアン・ハリファックス 著(英治出版)
話を聞き、「それは大変ですね」「ご苦労なさっていますね」というのは、共感ではありません。相手が立たされている状況、過去の経緯、その人が為してきた行動、感情、周囲との関係性。
そうしたものを、真っ白な自分で聞く。
その瞬間は、アドバイスをしてあげよう、とか、何をしたら状況は良くなるだろう、といったHOW系の思考は必要ありません。
その人が見てきた景色を想像し、過ごした年月に思いを馳せ、ここに至るまでの様々な体験を慈しんで受け止める。
その人の話を聞いている今この瞬間に意味があると信じて、話を聴く。
そこから、深い理解と共感が生まれるように思います。